Posted on 4 August, 2025

存在感増す中国産トリュフ
クオリティー、品種、その真実に迫る

近年、日本国内のレストランでも中国産トリュフの使用が増えています。一方で、過去にはヨーロッパ市場に出回る中国産トリュフの品質や、産地偽装が問題視されたこともあり、中国産トリュフに対する印象は依然として賛否が分かれます。

そこで今回は、中国のトリュフサプライヤーからお話を伺い、実際に中国産トリュフを取り寄せて試食、そのDNA解析を通じて品種の特定を行い、中国産トリュフの真実に迫りました。


中国ではどんなトリュフが採れる?天然?栽培?

ー 中国は黒トリュフの宝庫!

日本の約25倍の国土をもち、地形や気候も非常に多様な中国では、すでに15種類以上の品種が報告されています。その中で食用として安定的に市場に出回っているのが、チューバー・インディカム(学名:Tuber indicum)とチューバー・ヒマレイエンシス(学名:Tuber himalayensis )です。どちらも黒トリュフの一種で、外見はとてもよく似ています。Tuber himalayensis は日本でも自生しており、アジアクロセイヨウショウロとも呼ばれます。

雲南省のヒマラヤ山脈の近郊はトリュフの名産地となっており、「ヒマラヤトリュフ」や「ウンナントリュフ」という名前で、中国国内の高級ホテルや日本をはじめとした海外でも多く流通しています。その他、四川省、東北三省(遼寧省・吉林省・黒竜江省)、貴州省でもトリュフが採集されています。

中国の多くのトリュフは自生していますが、雲南省や四川省ではヨーロッパ種・黒トリュフ(学名:Tuber melanosporum)の栽培にも成功しています。


実食!ヨーロッパ種・黒トリュフと同じ品種?

ー ミシュランレストランも採用!四川発・高品質黒トリュフ

今回は、ヒマラヤ山脈の北部に近いエリアである四川省カンゼチベット族自治州でトリュフやモリーユ、ポルチーニなど野生のきのこを採集し、中国国内の5つ星ホテルやミシュランレストランだけでなくヨーロッパや中東にもトリュフを卸しているサプライヤーにご協力いただき、直接黒トリュフのサンプルを輸入してみました。

このトリュフは、サプライヤーによると、雲南省で採れる通称「ウンナントリュフ」よりも香りが強く、ヨーロッパ産が通常12月頃から熟し始めるのに対し、本トリュフは9月末には成熟を開始し、10月中旬には内部も黒く色づき芳香が高まり、翌年2月頃まで収穫が可能です。

この地域では、もともと人の手で野生のキノコを採取する文化がありました。ある日、採集家たちが偶然、見慣れないキノコを発見します。当初はそれがトリュフだとは気づかず、インターネットで調べたり研究を進める中で、ようやくトリュフだと判明しました。現在も、トリュフ犬を使わずに、熟練の採集家たちが自らの経験と勘を頼りにトリュフを見つけ出しているのだそうです。

ー 力強い香りと黒いマーブル模様、ヨーロッパ種ウィンター黒トリュフとそっくり?

中国四川省から空輸された黒トリュフは、外観がヨーロッパ産ウィンター黒トリュフ(Tuber melanosporum)と非常によく似ており、10月の段階にもかかわらず、ヨーロッパ産が12月以降に見せる繊細な黒色のマーブル模様を思わせる美しい断面を見せていました。

肝心の香りは非常に力強く、ヨーロッパ産の黒トリュフに似たナッツや土、キノコ、赤ワインを思わせる複雑で芳醇な香りが広がります。香りだけでなく、味わいもしっかりと感じられ、新鮮で食べ応えのある黒トリュフでした。ヨーロッパ産に時折みられるチョコレートのような甘やかな香りに比べると、ややエッジの効いた、力強い風味が印象的です。

中国産フレッシュ黒トリュフ

四川省甘孜チベット族自治州で採れた天然黒トリュフ(10月中旬)

イタリア産ウィンター黒トリュフ

イタリア・マルケ州で採れた天然黒トリュフ、Tuber melanosporum(2月初旬)

二種類の黒トリュフが木製のボードに並んでいる、それぞれにAとBと書かれている

Aが四川省甘孜チベット族自治州で採れた天然黒トリュフ、Bがイタリア・マルケ州で採れた天然オータム黒トリュフ、Tuber uncinatum (10月中旬)


見た目では分からない!黒トリュフの正体を科学で解明

ー プロでも見分けが難しい、品種の違い

見た目や香り、味だけでは品種の特定は困難なため、今回の検体については国内の地下生菌研究者の協力のもと、顕微鏡による形態観察とDNA鑑定を実施しました。

まず顕微鏡で胞子の形態を確認したところ、このトリュフはヨーロッパ種Tuber melanosporum ではないことが判明。Tuber melanosporum の胞子はTuber himalayense やTuber indicum のそれに比べてやや細長く、表面は独立した細かな棘に被われます。一方、Tuber himalayense やTuber indicum の胞子はやや横幅が広く、表面に不完全な網目状突起が発達します。

顕微鏡でみたT. himalayenseの胞子

ー DNA解析の結果、Tuber indicumと判明

さらに詳しい品種を特定するため、このトリュフのDNA配列を調べた結果、このトリュフの正確な品種はTuber indicumであることが分かりました。国産のアジアクロセイヨウショウロ Tuber himalayense とは相同性が98-99%程度で、かなり近縁ですが、同種ではないということでした。


価格だけにとどまらない中国産トリュフの魅力

ー 進化する中国産黒トリュフ:香りと品質の高さ、そしてモダンチャイニーズへの可能性

今回のトリュフを通じて明らかになったのは、中国産黒トリュフの香りの力強さと、そのクオリティの高さです。近年では、トリュフの産地である中国各地において、未成熟なトリュフの乱獲を防ぐために地方自治体が法律を整備し、適切な時期に収穫された高品質なトリュフが日本へも輸出されるようになっています。さらに、中国から日本へは直行便による最短当日の空輸が可能なため、より鮮度の高い(香りの豊かな)状態で消費者の元に届けられるという点も、大きな魅力と言えるでしょう。

ヨーロッパ種のTuber melanosporumとは厳密には別種であるものの、Tuber indicumの持つ力強い香りは中国料理との相性が非常に良く、小籠包や餃子の餡に加えられたり、中華ソースやスープに活用されるなど、モダンチャイニーズにおいて欠かせない食材となりつつあります。

中国産トリュフを楽しむためには、消費者や流通業者がその旬や特性を正しく理解し、信頼できるサプライヤーから新鮮で熟成したトリュフのみを輸入することが何よりも重要です。

セイロにトリュフ入り餃子が入っている